基地局がAI推論サーバーになる
ソフトバンクは9月15日、基地局無線装置(RU)と分散ユニット(DU)にGPUを搭載し、無線アクセスネットワーク(RAN)そのものをAI推論基盤として機能させる「AI-RAN」の実証実験を完了したと発表した。同社の発表によると、東京・汐留エリアで実施したフィールド試験では、エッジ側で大規模言語モデル(LLM)の推論を実行し、従来のクラウド経由に比べてレイテンシを約60%削減できたとされる。商用化は2026年度内を目指す。
この取り組みは、NVIDIAと共同で進めている「AI-RAN Alliance」の成果の一つだ。基地局装置にNVIDIA GH200 Grace Hopper Superchipを組み込み、無線信号処理とAI推論を同一ハードウェア上で並行動作させるアーキテクチャを採用している。ソフトバンクの宮川潤一社長は記者会見で「通信インフラそのものをAIの実行基盤に変えることで、デバイス側の負担を減らし、リアルタイム性が求められるアプリケーションの幅を広げる」と述べた。
エッジAIが変えるデバイス体験
実証では、スマートグラス型のARデバイスから送信された映像データを、最寄りの基地局エッジで即座に解析し、物体認識・翻訳・ナビゲーション情報をミリ秒オーダーで返すユースケースを検証した。デバイス側は推論用の重いチップを持たず、バッテリー消費も抑えられる。ソフトバンクの技術資料では、エッジ推論の往復遅延が平均12ミリ秒、ピーク時でも18ミリ秒に収まったと報告されている。
同様の動きはKDDIやNTTドコモでも進んでいる。KDDIは同月10日、NVIDIAと連携し「AI-RAN」の商用検証を神奈川県内で開始したと発表。ドコモも「6Gを見据えたAIネイティブネットワーク」として、基地局エッジへのGPU搭載を2027年度以降の標準仕様に組み込む方針を明らかにしている。三大キャリアが揃って基地局の「AI化」を競う構図が鮮明になりつつある。
デバイスメーカーにとっての意味
スマートフォンやウェアラブル端末のメーカーにとって、この流れは設計思想の転換を迫るものだ。これまで「オンデバイスAI」の強化=SoCのNPU性能向上という一本槍だったが、ネットワーク側が推論を引き受けるなら、端末は「センサーとディスプレイ、通信モジュール」に徹し、薄型化・長時間駆動・低価格化を両立しやすくなる。
実際、シャープは9月12日に発表した次期ARグラス試作機で、オンデバイス推論チップを省き、5Gミリ波通信モジュールのみを搭載する設計を披露した。同社担当者は「キャリアのエッジAI基盤が整えば、デバイス重量を40グラム台前半まで落とせる」と話す。また、ソニーグループも同13日、イメージセンサーと通信モジュールを一体化した「エッジAI向けセンシングモジュール」のサンプル出荷を開始したと発表。カメラ映像をそのまま基地局エッジへ送り、解析結果のみを受け取るアーキテクチャを想定している。