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法人AI活用

サイバーエージェント子会社アプリボット、約1年でコーディングエージェント使用率100%を達成した組織戦略

デイリートピックス編集部公開: 2026/09/13約6分で読めます2 views
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ゲーム開発者の技術カンファレンス「CEDEC 2026」で、サイバーエージェント傘下のゲーム会社アプリボットが、エンジニア約150人の組織でコーディングエージェントの使用率を約1年で100%に引き上げた経緯が明かされた。GameBusiness.jpの講演レポートによると、登壇した杉浦優介氏(サイバーエージェント/アプリボット)の説明では、2025年5月時点で大半のエンジニアがエージェント型AIツールを未使用だった状態から、同年9月の方針転換を境に活用が加速し、開発の起点がAIとの対話である割合も100%に達したという。

コーディングエージェントは、Claude CodeやCursorのように、開発者が自然言語で「これを実装して」と指示すると、コードの読解・実装・修正までをAIが担うツールだ。導入そのものは容易でも、組織全体で実務に定着させるのは難しく、勉強会を開いても使われなくなる企業も少なくないとみられる。講演は「なぜ勉強会だけでは浸透しないのか」という問いを掲げ、失敗の過程も含めた浸透戦略の全容を示した。

スマホゲーム開発を手がける600人規模の組織

アプリボットは、スマートフォン向けゲームを中心にエンターテインメント領域を手がけるサイバーエージェントの子会社だ。クライアントにUnity、バックエンドにGoを用いるのが主な技術スタックで、組織規模は約600名、うちエンジニアは約150名。100名超の大規模案件から10名程度の小規模案件まで、10以上のプロジェクトが並行して走っている。

この規模になると、開発環境を大胆に変えることには固有の難しさが伴う。プロジェクトごとに進め方や制約が異なり、現場の負荷も高いため、新しいツールを一律に配っても実務に結びつかないケースも出てくる。講演は、そうした大所帯の組織でAI活用を「当たり前」に変えていく過程を描いたものだった。

発足当初は「Cursorを知らない人が大半」

取り組みの起点となったのは、2025年5月に発足した横断組織「生成AI室」だ。約5名体制で、コーディングエージェントの普及と活用を目的に設けられた。杉浦氏によると、当時は社内でもCursorを知らない人が大半で、ゲーム開発ではAIの活用が難しいとみられ、存在すら知らないエンジニアが多かったという。

生成AI室はまず、使用可能なAIツールをホワイトリストで明確化した。あわせて、当時まだ普及していなかったMCP(Model Context Protocol)について、社内で利用しているConfluenceやWrikeとの連携を内製で整備した。使ってよいツールと接続基盤を先に固め、現場が判断に迷う余地を減らす狙いだったとみられる。

さらに、全職種を対象にしたCursorのハンズオンを実施し、エンジニア以外の職種もタスク管理などでAIツールに触れる機会を作った。生成AI室の予算は社長との相談のうえで確保し、移り変わりの激しいAIツール群を素早く検証できる体制も整えている(zenn.dev)。

「広く浅く」の限界が見えてきた

勉強会やハンズオンを重ねるなかで、課題が浮かび上がった。講演で挙げられたのは、知識を得ても実践に至らないこと、チームごとに浸透度がばらつくこと、普及度が定量的に測れず効果検証がしづらいこと、エンジニア以外も対象だったため発展的な内容を扱いにくいこと、そしてゲーム開発ならではの活用の難しさが認識されていたことの5点だ。

一方向的な勉強会は知識を広めるには有効でも、日々の開発フローを変える力を持たない。数百人規模の組織ではその限界が顕在化しやすく、この認識が後の方針転換につながっていった。

現場主導・計測可能・エンジニア中心への転換

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2025年9月、アプリボットは大きく方針を転換する。各プロジェクトにAI推進の責任者を配置して現場主導で熱量を伝える体制を作り、活用レベルを定量化して理解度と活用度を数値で測れるようにした。あわせて推進対象をエンジニア職に絞り、技術的に発展した内容を扱えるようにした。「勉強会中心の広く浅く」から「現場主導・計測可能・エンジニア中心」への転換である。

中核施策となったのが「AI活用レベル」だ。全エンジニアに25問のアンケートを毎月実施し、エージェントの理解度、並列実装の実践度、スキルをチームに展開してワークフロー化できているかといった項目をもとに、1から5段階のレベルを可視化する。会社全体では「平均レベル3」という定量目標を掲げた。

レベルの定義は、コード補完など部分的にAIを使う「AIアシスタント」(レベル1)、AIとの対話で単一タスクを完結できる「AIプログラミング」(レベル2)、複数セッションを並列に動かしチームへ知見を還元できる「AIオーケストレーター」(レベル3)、コーディングをAIに委任し要件定義や品質保証の仕組みを整えられる「AIアーキテクト」(レベル4)、他のエンジニアも使えるAIワークフロー自体を開発できる「AI・ワークフロー開発」(レベル5)の5段階で構成される。

忙しいプロジェクトほど学ぶ時間が取れず一歩を踏み出せないという声を受け、講演で5つ目の施策として紹介されたのが「AI Week」だ。1週間コーディングエージェントを必ず使って開発する取り組みで、各エンジニアが週初めに目標を設定し、業務内で実践、最後に成果を共有する。生成AI室が各プロジェクトのPMやエンジニアリーダーに直接掛け合い、業務時間の確保を取り付けた。この結果、コーディングエージェントを一度も使ったことがない社員はいなくなり、AI活用をめぐる議論のレベルも大きく上がったという。

使用率100%に至るまでに効いた要素

施策の結果、コーディングエージェントの使用率は100%、開発の起点がAIとの対話である割合も100%、複数のエージェントを並列で活用している割合は75%程度に達したとされる。2025年5月時点でほとんどのエンジニアが未使用だった状況を踏まえると、9月の方針転換を境に活用が一気に進んだ形だ。

杉浦氏は浸透のために効いた要素として、現場に近い人を巻き込むこと、計測可能な指標で目標を立てること、推進者自身がAI活用について社内で一番詳しい存在になることなどを挙げた。推進部門が仕組みを用意するだけでは足りず、現場の協力者、数字で語れる目標、推進側の専門性がそろって初めて組織は動くという問題設定が、施策の変遷を通して一貫している。

なお「AI活用レベル」の指標は現在、サイバーエージェントグループ全体でも採用されているという。単一子会社で検証した仕組みが、グループ規模のエンジニア育成の土台に広がりつつある。

他社事例にも共通する「導入」と「定着」の溝

導入しただけでは使われないという認識は、他社の事例からもうかがえる。aifriends.jpの事例解説によると、長野県の老舗みそメーカー・ハナマルキでは、情報システム部3人体制で社員約290人にGeminiを展開し、2026年6月時点でログイン率86%超を維持したとされる。個人情報や会社情報の入力を一律で禁止するガイドラインを先に定め、経営陣や各部門へ順に広げる進め方がとられたといい、削減効果は年間2万時間超と算出されている。

首都高速道路でも、動画研修だけでは利用が伸びず、対面かつ終日のワークショップに切り替えた結果、月100回以上Geminiを使う社員が約1年で約10倍に増えたとされる。業務内に実践の時間を確保し、現場の理解者を得る点は、アプリボットの「AI Week」や現場責任者の配置と重なる。

総務省の令和8年版情報通信白書によると、業務で生成AIを利用している企業の割合は86.4%に達した一方、「メールや議事録、資料作成等の補助」に使っていると答えた割合は日本では46.8%にとどまる。ツールが入ることと実務に定着することは別の問題であり、その溝を埋める鍵がツールの性能ではなく組織側の設計にあることを、アプリボットの事例は数値つきで示唆している。

出典・参考リンク

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