デロイト中国と香港大学が共同でまとめた「AI Adoption Index 2026」は、中国本土と香港の企業における生成AI導入の現状を整理した調査だ。100人を超える経営層への調査をもとに、導入の成熟度と財務効果、予算計画を定量的に示している。長期的な期待の高まりと全社規模の成果の少なさが対照的に表れている。

隣接地域の実態は国内の全社展開を考える材料になる。

3分の1が探索段階、限定導入が56%の現実

exploration段階にある組織は3分の1を超え、限定導入の段階にある組織は56%に達した。測定可能な財務効果を報告した企業は23%で、変革的な段階にあると答えた企業は4%だった。局所的な効果は出ているが、企業全体の業績を動かす水準には届いていない。

導入の裾野と深さには差がある。チャット要約や文書作成などの個別業務では利用が広がる一方、基幹業務や部門横断のプロセスには組み込まれていない。PoCの数は増えても、本番の業務フローに定着したものは少ない。成熟度の分布がそのまま定着の難しさを表している。

予算拡大が続くのに成果が偏る背景

同調査では、今後3年間でAI予算を拡大する方針の経営層が多数を占めた。期待がしぼんだわけではなく、中長期の投資対象として位置づけが強まっている。予算の伸びと成熟度の低さが併存する点が、今回の調査の中心的な論点だ。

背景には推進体制の分散がある。現場主導の試行が先行し、全社戦略や評価指標との接続が後追いになる例は多い。データ整備や権限設計、運用責任の所在が決まらないままツールだけが増えると、効果は一部のチームに偏る。投資の意思と実行の仕組みのずれが数字の落差につながっている。

全社展開を阻む人材とデータ、運用の壁

一つ目の壁は人材と使いこなしである。技能育成と配置転換が進まなければ、現場の利用は一部の試行にとどまる。操作研修だけでなく、業務手順の見直しとセットで定着させる必要がある。部門ごとに活用度がばらつく状態では全社効果は生まれにくい。

二つ目はデータと運用ルールの整備である。社内文書の所在や更新責任、利用できるデータ範囲、出力の確認手順が曖昧なままでは利用は広がらない。クラウドや接続環境、高品質なデータがなければ精度と安定性は確保できない。明確で一貫性のある社内ルールが部門横断の展開を支える。

日本企業が全社展開へ進むための順序

まず必要なのは全社の物差しを決めることだ。部門ごとの効率化だけでなく、売上やコスト、品質、リードタイムなど経営指標との関係を明確にする。23%という財務効果の水準は、測定の枠組みを持つ企業と持たない企業の差でもある。評価軸がなければ予算の追加根拠も示せない。

次にデータと権限の整備が欠かせない。社内文書の所在や更新責任、利用できるデータ範囲、出力の確認手順を決めることで、現場は安心して使える。ガバナンスは統制だけでなく、利用を後押しする条件整備でもある。人材育成と合わせて進めることで、探索段階から限定導入、さらに全社展開へ段階を上げられる。